WIRED VISIONの連載「エコ技術研究者に訊く」で最も反響の大きかった回が、東京工業大学 矢部孝教授の研究を紹介した「世界は、石油文明からマグネシウム文明へ」でした。
矢部教授が提唱するのは、「マグネシウム循環社会」というビジョンです。この研究は、海水からマグネシウム化合物を取りだし、太陽光励起レーザーで金属マグネシウムに製錬。金属マグネシウムを、自動車用の金属燃料電池や発電所の燃料として利用するという壮大なものです。生成される酸化マグネシウムは太陽光励起レーザーで再度金属マグネシウムに戻されます。
はてなブックマークなどでも、さまざまな意見が寄せられたので、これに答える形で「『世界は、石油文明からマグネシウム文明へ』矢部教授の回答」を掲載しました。
そうしたところ、ちょうどよいタイミングでPHP研究所からお話があり、このたび『マグネシウム文明論』(矢部孝・山路達也、PHP新書)を発売させていただくことになりました。
矢部教授の研究は海外でも注目を集めており、TIME誌は矢部教授をHeroes of the Environment 2009の1人として選出しています。
私がこの研究に興味を持った理由の1つは、『弾言』(Amazon / iPhone版)での小飼弾氏の発言にあります。
では、安価で使い放題の「十分なエネルギー」があったとしたら、いったい何が起こるのでしょうか? 現在ではコストの関係で不可能な製錬技術を使えることになります。そのへんに転がっている石ころが資源に化けてしまうのです。
その話を聞いた時には「核融合の実現までそれは無理だろうなあ」と思っていたのですが、自分の取材候補メモを見直していてピキーンと来るものがありました。矢部教授の太陽光励起レーザー、これはまさに「安価で使い放題の『十分なエネルギー』」を実現するものなんじゃなかろうか?
実際に矢部教授に話を聞いて驚いたのは、レーザーとは別に、太陽熱を利用した低コストの淡水化装置を開発していて、すでにそれが製品化されているという事実です。海水から無尽蔵のマグネシウムを取り出し、それを太陽エネルギーで製錬する。これは今までの経済に関する考え方を根底から覆す可能性があるかもしれません。
これまでの経済学では、資源(モノ)は有限であることを前提にしていました。これに対し、最近ではIT技術の進展に伴い、無料経済という考え方が広まりつつあります(「無料経済」については、WIRED編集長Chris Anderson氏による『フリー〜〈無料〉からお金を生みだす新戦略』に詳しい)。情報や知恵(コト)は、モノとは異なり、使っても減ることがありません。しかし、いくらモノを知恵で有効利用できるようになっても、資源が有限であることに代わりはないわけです。
SF作家の小川一水氏は、『不全世界の創造手(アーキテクト)』で「潤沢経済」の世界を描きました(私の勘違いでしたらすみません)が、太陽エネルギーの高度利用にはこうした可能性があるかもしれないと、夢想しています。あ、こういうことに関しては、私が勝手に夢想というか妄想しているだけです、念のため。
まあ、そういうSFファンの夢想、妄想もかき立ててくれる『マグネシウム文明論』。PHP新書より、12月16日発売です(価格756円)。ご一読いただければ、幸いです。
また、本書の発売に合わせて、「マグネシウム循環社会」についての関連情報を紹介するサイト「The Magnesium Civilization」も公開しています。『マグネシウム文明論』へのご質問などもこちらで受け付けています。
『マグネシウム文明論』目次
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