石油に代わる新エネルギーは何か?『マグネシウム文明論』PHP新書より発売です #mgciv
				12月 11th, 2009 
			
				
WIRED VISIONの連載「エコ技術研究者に訊く」で最も反響の大きかった回が、東京工業大学 矢部孝教授の研究を紹介した「世界は、石油文明からマグネシウム文明へ」でした。
矢部教授が提唱するのは、「マグネシウム循環社会」というビジョンです。この研究は、海水からマグネシウム化合物を取りだし、太陽光励起レーザーで金属マグネシウムに製錬。金属マグネシウムを、自動車用の金属燃料電池や発電所の燃料として利用するという壮大なものです。生成される酸化マグネシウムは太陽光励起レーザーで再度金属マグネシウムに戻されます。
はてなブックマークなどでも、さまざまな意見が寄せられたので、これに答える形で「『世界は、石油文明からマグネシウム文明へ』矢部教授の回答」を掲載しました。
そうしたところ、ちょうどよいタイミングでPHP研究所からお話があり、このたび『マグネシウム文明論』(矢部孝・山路達也、PHP新書)を発売させていただくことになりました。
矢部教授の研究は海外でも注目を集めており、TIME誌は矢部教授をHeroes of the Environment 2009の1人として選出しています。
私がこの研究に興味を持った理由の1つは、『弾言』(Amazon / iPhone版)での小飼弾氏の発言にあります。
では、安価で使い放題の「十分なエネルギー」があったとしたら、いったい何が起こるのでしょうか? 現在ではコストの関係で不可能な製錬技術を使えることになります。そのへんに転がっている石ころが資源に化けてしまうのです。
その話を聞いた時には「核融合の実現までそれは無理だろうなあ」と思っていたのですが、自分の取材候補メモを見直していてピキーンと来るものがありました。矢部教授の太陽光励起レーザー、これはまさに「安価で使い放題の『十分なエネルギー』」を実現するものなんじゃなかろうか?
実際に矢部教授に話を聞いて驚いたのは、レーザーとは別に、太陽熱を利用した低コストの淡水化装置を開発していて、すでにそれが製品化されているという事実です。海水から無尽蔵のマグネシウムを取り出し、それを太陽エネルギーで製錬する。これは今までの経済に関する考え方を根底から覆す可能性があるかもしれません。
これまでの経済学では、資源(モノ)は有限であることを前提にしていました。これに対し、最近ではIT技術の進展に伴い、無料経済という考え方が広まりつつあります(「無料経済」については、WIRED編集長Chris Anderson氏による『フリー〜〈無料〉からお金を生みだす新戦略』に詳しい)。情報や知恵(コト)は、モノとは異なり、使っても減ることがありません。しかし、いくらモノを知恵で有効利用できるようになっても、資源が有限であることに代わりはないわけです。
SF作家の小川一水氏は、『不全世界の創造手(アーキテクト)』で「潤沢経済」の世界を描きました(私の勘違いでしたらすみません)が、太陽エネルギーの高度利用にはこうした可能性があるかもしれないと、夢想しています。あ、こういうことに関しては、私が勝手に夢想というか妄想しているだけです、念のため。
まあ、そういうSFファンの夢想、妄想もかき立ててくれる『マグネシウム文明論』。PHP新書より、12月16日発売です(価格756円)。ご一読いただければ、幸いです。
また、本書の発売に合わせて、「マグネシウム循環社会」についての関連情報を紹介するサイト「The Magnesium Civilization」も公開しています。『マグネシウム文明論』へのご質問などもこちらで受け付けています。
『マグネシウム文明論』目次
- 第1章 石油文明に代わるのは、自然エネルギー・水素社会か?
 
- 石油文明、終わりの始まり
 
- 石油はなくなる? なくならない?
 
- 深刻化する地球温暖化
 
- 世界経済の成長を止めることはできない
 
- 石油・石炭を代替するエネルギー源は存在するか?
 
- 太陽光発電で日本の電力需要を満たせるか?
 
- 電気は溜められない
 
- 太陽光・熱や、風力・地熱はローカルなエネルギー源として利用する
 
- 水素社会は実現可能か?
 
- 核融合は未来のエネルギー
 
- 新しいエネルギーと資源の循環を考える
 
- 新しいエネルギー源になる物質は「マグネシウム」
 
- マグネシウムが燃料にならなかったのは高価だったから
 
- 太陽光でレーザーをつくり、マグネシウムを製錬する
 
- マグネシウムを海水から取りだす
 
- 使ったマグネシウムは、太陽光でリサイクル
 
- マグネシウムサイクルは、実用化寸前の段階
 
- 第2章 太陽光からレーザーをつくる
 
- すべてはレーザーから始まった
 
- 情報通信から医療まで、あらゆる分野で使われるレーザー
 
- 自然界の光には、バラバラの光が入り交じっている
 
- レーザーは、波長や波のタイミングがピタリと揃っている
 
- レーザーが輝くまで
 
- レーザー核融合の実現を目指した日々
 
- 実現が遠のく核融合
 
- レーザーでロケットを飛ばす
 
- 太陽光を直接レーザーに変換する
 
- レーザーを金属製錬に使う
 
- 市場価格の高いマグネシウムが狙い目
 
- 太陽光は本当にレーザーに変換できるか?
 
- 太陽光がレーザーに変わった
 
- 予算は出たが、レーザーが出ない
 
- 北海道千歳市に実験設備をつくる
 
- 北海道で80ワットのレーザーが発振された
 
- レーザー研究の資金繰りに窮する
 
- レーザー媒質を、結晶ではなく、セラミックスでつくる
 
- 太陽光の集光に反射鏡は必要なかった
 
- レーザー媒質の冷却を太陽熱で行なう
 
- 宇宙での発電は重量が問題
 
- レーザー発生装置は1台50万円以下
 
- 出力400ワットのレーザーも実現間近に
 
- フレネルレンズの精度を上げる
 
- レーザー媒質の改良も進んでいる
 
- 第3章 レーザーでマグネシウムをつくる
 
- はたして、レーザーでマグネシウムは製錬できるのか?
 
- かつて主流だった電解法は、ほとんど使われなくなった
 
- 大量の石炭でマグネシウム製錬を行なうピジョン法
 
- 化学反応を使うのは高エネルギーを得る手段がなかったから
 
- 原子の結びつきをバラバラにするレーザー製錬法
 
 
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- 一点集中のレーザーなら、炉全体は熱くならない
 
- レーザーが照射されると、一瞬で酸化マグネシウムが気化する
 
- 300本のレーザーを並べてマグネシウムを製錬する
 
- どれくらいのマグネシウムを製錬できるのか?
 
- 価格でピジョン法に勝つ
 
- レーザーなら、どんな金属でも製錬できる
 
- 重要な副産物を生みだしつづけるレーザー研究
 
- 世界で使われるようになったシミュレーション手法「CIP法」
 
- 第4章 マグネシウムを燃やす
 
- マグネシウム価格が150円/キログラムを切れば、燃料として使える
 
- 加熱する次世代自動車の開発競争
 
- 内燃機関によって駆動する現行自動車
 
- ガソリンエンジンと電気モーターのハイブリッド車という現実解
 
- 内燃機関から電気モーターへの移行
 
- 電池とインフラに問題を抱える電気自動車
 
- 盛り下がる燃料電池自動車の開発
 
- マグネシウムを自動車用の燃料として使う
 
- 水素燃料電池はNGだが……
 
- 水素を発生させない空気電池
 
- 600キロメートル走行に成功した亜鉛空気電池自動車
 
- マグネシウム空気電池の実証実験
 
- 電気自動車vs.マグネシウム空気電池車
 
- 鉄道もマグネシウム空気電池で走る
 
- 未来の船は、レーザーとマグネシウムで海原を行く
 
- 電子機器にも搭載できる
 
- 火力発電所の燃料をマグネシウムにする
 
- 第5章 海水から淡水とマグネシウムを取りだす
 
- 金属マグネシウムの材料はどこから手に入れる?
 
- 2025年、世界は深刻な水資源の危機に見舞われる
 
- 世界で激化する水ビジネスに参入する
 
- 現在の淡水化の手法では、莫大なエネルギーを消費する
 
- 逆浸透膜法では淡水の需要をまかなえない!
 
- 魚の養殖装置から生まれた淡水化装置
 
- 淡水化装置で世界の水ビジネスに挑む
 
- 世界の水ビジネスに出遅れる日本
 
- 第6章 マグネシウム循環社会がやってくる!
 
- マグネシウム循環社会実現へのロードマップ
 
- 淡水化装置の販売で利益を出す
 
- 太陽光励起レーザー発生装置の建設を進める
 
- 燃料利用が現実に
 
- マグネシウム循環社会では、何が変わるのか?
 
- レーザー製錬で金属工業のあり方が変わる
 
- 燃料としてマグネシウムが使われるようになったら
 
- 発展途上国の生活にはドラスティックな影響を与える
 
- 太陽熱の高度利用が進めば、リサイクルも加速する
 
- 石油をマグネシウムに置き換えると二酸化炭素はどのくらい削減できるか?
 
- 電気を使わない淡水化装置なら、二酸化炭素削減は簡単に達成できる!
 
- 日本人はもっと科学を楽しもう
 
 
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												on 金曜日, 12月 11th, 2009 at 13:15						and is filed under book, ecology, works.
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