ソフトウェア産業の危機は、日本全体の問題を象徴している

10月 3rd, 2004
[`evernote` not found]
Facebook にシェア

コンピュータにあまり興味がない人は、日本のソフトウェア産業が危機にあると聞いてもピンと来ないかもしれない。ゲームソフトなんかもをあんなに輸出しているじゃないかと。
ところが、日本のソフトウェア輸出額は輸入額の1%という何ともお寒い状況なのだ。さすがに偉いさんもやばいと思いはじめ、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が国内のソフト開発力を強化するためにソフトウェア・エンジニアリング・センターを設立することとなった。

ソフトウェアの危機的状況については、前川徹氏の『ソフトウェア最前線―日本の情報サービス産業界に革新をもたらす7つの真実』に詳しい。この本では、なぜ日本のソフトウェア産業の競争力がこんなに低いのかを的確に分析している。
まず、日本で使われているプロジェクトの手法である、ウォータフォール・モデルの弊害。ようするに、要求→設計→開発→テスト→保守と、十分なフィードバックを受けないまま次の工程に進み、後戻りができない。そのため、仕様変更があるとおそろしくコストが跳ね上がってしまう。ソフト自体の信頼性も落ちる。
これはソフトウェアの開発プロセスを変えればいいという問題ではなく、優秀なプログラマが報われない賃金体系(残業してダラダラ仕事したほうが儲かってしまう!)や、下請けに丸投げする企業体質、顧客側の理解不足(ソフトウェアは機械部品とは違うということ)等々の要因が絡み合っているわけだ。ソフトウェア開発に携わっている人だけでなく、システムを発注する立場になった人は、問題点を理解するためにもこの本を読んでおいた方がいい。


この状況はソフトウェア産業のみならず、現在の日本が抱えている構造的な問題を象徴しているように思う。そして、問題の根幹にあるのは、日本人のエセ平等主義なのではないかな。教育の機会は平等であるべきだけど、同じ教育を受けてもみんながノーベル賞を取れるわけではないという現実。ここでいいたいのは、人間はできる奴、できない奴の2種類だけということではなくて。確かに個人の能力には優劣があるが、優劣の基準軸は1つではない。そういう多様性の受け入れが不十分だったために、適材適所が実現できず、社会の硬直化を招いてしまったのかなという気がする。

それでもソフトウェアの分野では、明るいニュースもある。先述のIPAが行っている「未踏ソフトウェア創造事業」から、SoftEtherも生まれてきたわけだし。

そういえば、何年も前になるが、IPAから助成金をもらっているというソフトのデモを見たことがある。それは初心者向け写真アルバムという触れ込みだったのだが、びっくりするほど使いにくくて低機能だった。画像をドラッグアンドドロップで入れ替えることもできない(その当時でも、ドラッグアンドドロップでの操作を実現しているソフトはいくらでもあった)。極めつけは、貼り付けた画像の削除機能がないこと。削除したい時はどうするのかと聞くと、白一色の画像を用意して上から貼り付けてくださいというのだ! それはいくら何でも使いにくいだろうと指摘したが、メーカーの人間は自信満々に「複雑すぎる機能は初心者に不親切です」と言い切るのだった……。
それを思うと、未踏ソフトウェア創造事業が支援しているプロジェクトはどれも面白そうで、隔世の感がある。

○未踏ソフトウェア創造事業関連記事
“翻訳者並み”翻訳ソフトに“癒し系”仮想旅行ソフト――IPAX
SoftEther、blogWatcherなどIPAソフトウェア開発事業の成果

4 Responses to “ソフトウェア産業の危機は、日本全体の問題を象徴している”

  1. 試しに私が書いてみる Says:

    メモ

    ソフトウェア産業の危機は、日本全体の問題を象徴している

  2. yunnan Says:

    正直意外ですね。yunnanも「ゲームソフト」輸出大国というイメージがありましたからね。
    理由を思いつくままに書けば、1)殆どの業務用ソフトの基盤(OS?)がそもそも日本で開発していないということ 2)個人用ソフトを日本のメーカーが開発する場合、日本語バージョンを最初に開発するため、改めて英語版などを開発しないといけないこと 3)個人用ソフトと言えば、大半のPCに輸入物がプリインストールされているということetc…しかし、そもそも論のところで典型的に「独創性がない国民性」と言われるところ、つまり、魅力あるソフトを構想する力がないのかもしれない・・・
     #モノが形になってる製品は動作が改善すればそれだけで売れますが、ソフトウエアはそういうわけにいかないですからね

  3. Tats_y Says:

    (1)に関しては、日本独自開発のOS「TRON」(中でもBTRON)が事実上つぶされたということがありました(経緯については諸説ありますが)。ユニークなソフトウェアを作る人間がいても、そのすばらしさを理解する人間が少なく、国を挙げて支援する仕組みがなかったということもありますね。
    というわけで、「未踏ソフトウェア創造事業」にかなり期待しています。

  4. Kazuho Oku's blog Says:

    日本のソフトウェアが輸出されない理由

    CNET Japan の記事等で報じられているように、日本のソフトウェアの輸出入の比率は、輸出 100 vs. 輸入1 だそうである。その原因は何か。よく挙げられる候補は、これら3つだろう。

    独創?…

Leave a Reply

Comments links could be nofollow free.