クリエイティブ・コモンズのシンポジウム

3月 21st, 2004
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20日にICC(NTTインターコミュニケーション・センター)で行われた「クリエイティブ・コモンズ」のシンポジウムに参加した。
クリエイティブ・コモンズの日本版ライセンス公開記念という意味もあるようで、ローレンス・レッシグ教授による講演のあと、山形浩生氏伊藤穣一氏との鼎談が行われた。
私は、クリエイティブ・コモンズについてそれほどマメに追っているわけでもないし、あまり深く突っ込んで考えているともいえない。そこで、シンポジウムで興味を惹かれた内容だけをいくつか紹介することにする。


・レッシグ教授講演の冒頭、ブッシュとブレアが「エンドレスラブ」を熱唱するパロディーミュージックビデオが流された。前にも見たことはあるが、やっぱり笑える。知的財産が過剰に保護されると、こうしたコンテンツも海賊行為として扱われてしまう。
・過去80年間はトップダウンで集権的な言論であったが、ボトムアップでアマチュアによる分権的な言論が生まれてきた。それはニューヨークタイムズのような権威ではなく、ブログ的、P2P的なもの。
・法律というのは新技術に合わせるべきものだが、今は過去の法律に技術を合わせようとしている。
・これは、新しいコンテンツが生まれにくくなるというでもあり、経済的に大きな損失が生じている。
・あるミュージシャンが「My Life」という曲をクリエイティブ・コモンズの元で発表。別の人がこれにバイオリントラックを追加して、「My Life Changed」として発表した。こうしたコラボレーションが弁護士の介在なく行える。
・コンテンツを引用して新しいコンテンツを作る場合、違う条件のコンテンツが混じっていたらどうなるのか? 特にマルチメディアコンテンツではこうした問題が非常に複雑になるが、それは著作権という考え方の限界でもある。

伊藤穣一氏は、おもにビジネスの観点からクリエイティブ・コモンズのメリットを紹介。
・カメラ付き携帯電話との連携を交渉中。写真を撮影したあと、それをクリエイティブ・コモンズのどういうライセンスで公開できるかを選択できる。
・今の音楽文化は、すべてアメリカ経由。クリエイティブ・コモンズを使って、アフリカなどの音楽を世界に発信。コピーしづらいものより、自由に使えるものの方が広まりやすい。
・今のレコード会社の幹部にはアーティストを育てるという意識がない。訴訟で金を儲けようという発想。しかし、ひとつまみのトップアーティストを除けば、曲を自由に聞けたりサンプリングできるようにした方が知名度アップにつなげやすい。こういうライセンスを許すレコード会社が選択されるようになれば、著作権をめぐる状況が変わってくるかもしれない。→レッシグ教授は、本を丸ごとクリエイティブ・コモンズとして公開した例を紹介。こうした方が結果的に売れたという例。また、Amazonでは本の全文検索サービスを行っているが、このように一部を引用して記事を書けば、それを読んだ人が本を買う。
・ブログにおいては、サイト全体にクリエイティブ・コモンズのライセンス表示をすることが一般的だが、今後は個々の投稿についても簡単にライセンス表示できるようにしていきたい。
・コンテンツにライセンス表示があれば、そうしたコンテンツを集めて利用するサービスを展開しやすい。それが法的に問題ないとなれば、投資家も安心。

『コモンズ』を翻訳した山形浩生氏は、進行役として、クリエイティブ・コモンズに対する疑問をレッシグ教授や伊藤氏にぶつけていた。
・多くのブロガーは、商用利用を禁じていることが多い。これは勝手に記事を出版されるのが気にくわないということだが、Amazonなどにトラックバックしてアフィリエートによる収入が得られるようなビジネスモデルが一般的になれば、考え方が変わってくるかもしれない。
・クリエイティブ・コモンズで記事を公開すれば、勝手に各国語へ翻訳して広めてくれるというメリット。
・クリエイティブ・コモンズでないものを勝手に自分のコンテンツとして登録した人間がいた場合。盗品と知らずにものを買った場合は、罰せられない。しかし、現在著作権法では、知的財産を知らずに利用した人も罰せられる危険性がある。

NTTサイバーソリューション研究所による「Digital Commons」のデモ。
・モバイルコンテンツの市場は2008年に1兆円程度と予測されるが、これは非常に少ない。もっとコンテンツの制作・流通を促進することはできないか。
・コモンズと商用ドメイン、消費者とクリエイターという2つのスパイラルがうまく回るように。コモンズを通じて草の根からプロになったアーティストが、コモンズへコンテンツを還元するといった流れ。
・「Digital Commons」のサイト(4月公開。URLは「http://digitalcommons.jp/」では、自分のコンテンツにユニークなIDを割り振れる。静止画、動画等については電子透かしも埋め込める。また、どのようなコンテンツを元に制作したのかも登録できるので、コンテンツの親子関係がわかる(先述の「My Life」を例に)
・Digital Commonsは無料で公開。運営費は、ブロードバンド回線の加入費等々から捻出。

クリエイティブ・コモンズで、知的財産にまつわるトラブルがすべて解消されるわけでもない。そもそも著作権の考え方自体がネット時代に合致していないともいえる。しかし、コンテンツの著作権というものを、素人でも議論にできるように持ってきた功績はやはり大きいと思う。
今後も引き続き、クリエイティブ・コモンズについて勉強していく予定。

(追記)
シンポジウムについてレポートしているサイト
OpenMeetingWithProfLessig – 2004年3月レッシグ教授来日記念リンク集
のまのしわざ
Driftkingdom

6 Responses to “クリエイティブ・コモンズのシンポジウム”

  1. yunnan Says:

    行きたかったです、このイベント。講演者の、コンテンツの拡大利用にかける意気込みが伝わってきました。いよいよ日本での動きも本格化とは、面白くなってきましたね。筆者も勉強させていただきます。

    …それにしても、法律って、一般的には敷居が高いものなのかぁ。企業で法律などを扱う者として責任を感じますね。難しい単語を振りかざす自称専門家が世の中に多いからでしょうか。
    でも、こういうムーブメントをきっかけに「一般の人による法的議論、権利や制度をめぐる議論」が活発になることを望みます。筆者も是非、その一翼を担いたいですね。(ちょっと大きく書きすぎた・照)

  2. Tats_y Says:

    クリエイティブ・コモンズはたんなる理想論ではなく、ビジネスとの結びつきまできちんと視野に入れている(それが現実的にものになっているかどうかはともかく)ところが注目に値すると思いますね。
    今後私が企画・制作する書籍に関しても、クリエイティブ・コモンズへの参加を出版社に提案してみようと思っています。書籍の全部といわないまでも、一部を公開してみようかと。クリエイティブ・コモンズへの注目が高くなってくれば、参加しているコンテンツの宣伝になるという下心ですけどね。でも、こういう展開はクリエイティブ・コモンズの主張にもかなうと思うし。

    私は法律的な考え方にはなじみがないので、自信を持って法的議論に参加できないでいます。ただ、ビジネス的メリットからの参加であっても結果的にコンテンツ制作・流通の活発化に役立つかも、という考え方をみなが持つようになれば、面白いことになりそうですね。

  3. binWord/blog Says:

    レッシグ教授の新刊、全文をネットで公開

    クリエイティブ・コモンズ中心人物の1人であるレッシグ教授が新刊『Free Culture』を発表した。同書の驚くべき点は、一般書店での販売以外に、全文のPDFがネット上に「無料で」公開され??…

  4. skytaxi blog Says:

    著作権について考える

    eparts – スペシャルプロジェクト  シンポジウム「著作権ってどうよ?」  〜切ったり貼ったりまねをする、みんなそこから始まった〜 というのがあります。クリエイターだけでなく、?…

  5. go!go!国内盤レビュー Says:

    シンセサイザー音色に著作権 / クリエイティヴ・コモンズ

    日本シンセサイザープログラマー協会というとこの顧問弁護士が著作権に関して妙な主張を広げてます。

  6. sima2*blog Says:

    米Yahoo!クリエイティブコモンズコンテンツ検索をスタート

    クリエイティブ・コモンズ、米ヤフーサイトに専用検索ページ – CNET Japa…

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