身も蓋もない結論を突きつける『格差の世界経済史』

6月 23rd, 2015
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『格差の世界経済史』(グレゴリー・クラーク著、日経BP社)、いやあ身も蓋もない結論を突きつけてくる本です。

あらゆる人の将来性の根底には、社会階級のように見えなくもない、代々受け継がれてきた逃れられない基盤的なものがあると考えられるのだ。(p.8)

研究の手法や対象については、これからほかの専門家がいろいろと突っ込みを入れるのだと思いますが、入手できるデータを元に仮説を検証していく過程はスリリング。こういうのを読むと、「文系学部がうんたらかんたら」といった議論がつまらなく見えてきます。学部が文系だろうが何だろうが、研究に必要ならば理系的な手法、ツールはいくらでも使えるわけで。

しかし、養子の成功度に関する研究は、養子の成功度に生じるばらつきの大半は養父母の影響から生じたのではなく、彼らの生物学上の両親か偶然の影響によるものであることを強く示唆している。生物学的要因は結果のすべてではなくても、その大半を支配しているのだ。ただし、この養子の研究では、社会的介入によってもっとも恵まれない環境に生まれた環境に生まれた子どもの成功度が変わる可能性は否定していない。
 たとえば、知的水準の継承に関する研究では、幼い子どもの知的水準には養父母が大きく影響するものの、子どもが成人に近づくにつれて、彼らの知的水準は生物学上の両親のほうにより似てくることがわかった。(p.370)


 私は、教育格差というのは結局収入格差なんじゃないのと思っていたので、上記の研究結果にはかなり衝撃を受けました。しかし、再分配についての議論では「かくあるべし」論だけでなく、(見たくはないにしても)こうした実証的な研究の成果を取り込んでいくことも必要なんでしょうね。
 本書の身も蓋もなさの真骨頂は、最終章。

わが子の将来の所得や資産、教育、健康の水準をできるだけ高めたいと願う人々に本書が助言できることは何かあるだろうか。本書にできる科学的貢献のひとつは、適切な配偶者を選べば家族は下向きの流動性から永遠に脱出できると指摘することである。(p.394)

 どういう配偶者が適切なのかは実際に読んで確認していただきたいですが、ここだけでも読む価値はあります。
 この知見を取り入れた結婚サービスがそのうち登場してきそうな予感。要は、本人のスペックだけでなく、親類の社会的地位も含めて将来を予測する、良家同士のお見合いみたいなサービスが注目されることになるんじゃないかな……。
 本書では社会的成功につながる遺伝子の存在を示唆していますが、それがどのようなものかは明らかにしていません。もし存在するとするなら、やはりニューロンに関わるものなのかも。例えば、人間の脳には顔を認識する時に働く顏領域があって、ここに機能障害が生じると相貌失認になると考えられているそうです。そして、先天性相貌失認では遺伝による生得的症例である可能性も否定できないとか。
 想像ですが、もし仮に「得か損かを瞬時に判断する」(「面白そうか面白くなさそうか」ではなくw)とか「忍耐強い」といった脳の機能が遺伝するとしたら、それだけで社会的地位の流動性は説明できてしまうのかもしれません。
 これまでにも優生学にまつわる社会的な議論が何度も起こってきましたが、さて今度はどうなるでしょうか。

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